大好きな黄八丈に触れながら、本場物と証紙について思うこと・・

夏着物も単衣もほぼ着る機会がないまま、また袷を着る10月になってしまったが、この時期、真っ先に思い出すのが黄八丈。

 深まりゆく秋を先取りするような、こっくりした黄金色のためだろうか。

ちなみにこのネクタイも黄八丈。夫とこの島に行ったときに購入した物だ。

実は、私のお着物と合わせてコーディネートしたさりげないペアルック(のつもりw)。

(・・とか思いつつ、黄八丈の着物はまだ仕付けがついたままw。私の和箪笥は最近、新古品のコレクション・ボックスみたいだw。)

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柄選びにはとっても悩んだお気に入りの1枚

私の黄八丈は綾織り格子の薄い縞模様。
黄八丈は、八丈島を産地とする数少ない東京の織り物である(なので、とても欲しかった(笑)。

しかしこの着物を選ぶ際には、柄でとても悩んだことを覚えている。

割と値がはる着物なのにw、黄八によくある大きめのチェック柄ではカジュアル過ぎ、はっきりした縞では粋過ぎて、私には着用場面が限られそうな気がしたためである。

お出かけ用の紬選びは本当にむずかしい。

いかにも「黄八」という小さめの格子柄も捨てがたかったが、よくよく考えてこちらを選び、柄をおとなしくした分、綾織りで変化を求めたのだった。
帯合わせにもよるが、この柄行きなら、ネクタイをした夫とちょっとしたお食事会程度まで大丈夫と思っているのだが、どうだろう・・。

希少品になりつつある黄八丈

黄八丈は、八丈島に自生する植物を原料にした草木染めの絹織物である。

コブナグサというイネ科の植物から黄色が、マダミの樹皮から鳶色が、椎の樹皮から黒が染め出される。特に黄金に輝くような艶やかで深い黄色が印象的で、伝統的にはこの3色のみで織られている。

また、スッキリした格子や縞など江戸好みな柄も特徴で、室町時代から続くとされる歴史も長い。平織りのほかに、地に格子を織り出した綾織り・市松織りもあるが、特に「まるまなこ」は黄八丈独特のもので非常に手の込んだ織り柄とされている。

本黄八の証紙には「染色者」と「製織者」名が記載されるが、ネットなどで調べて見たところそれぞれの数が少なくなり、現在では染色者1名・製織者50名程度とのことで、本場物は希少な織物になりつつある。

さらに、生産者の高齢化で今後の産出も危ぶまれていることから、新反で購入するなら今のうちかも知れない。特に、染色に時間も労力もかかる黒をベースにした黒八丈や、夏生地として織られた夏黄八は、これまでも数が少なかったのに、さらに入手が難しくなってしまうことだろう・・。

本場以外の黄八丈?と証紙のこと

本場の黄八丈(いわゆる本黄八)は、うっとりするような黄金色に輝き、織りもしっかりした絹生地で、伝統的工芸品にも指定されている素晴らしく上質な紬なのだ。

 ・・が、これを子供っぽい黄色地の格子のことと混同(勘違い?)している向きが多いのは残念である(というか、都民の私としてはかなり寂しいw)。

そういえば先日、布端に「黄八丈大島」と織り込まれた反物が販売されているのを、ネット上で見かけた。織り物としては明らかに大島風なのであるが、やはり黄色地に赤系の格子柄である。黄八丈という言葉は、すでにこうした柄調子を意味する一般用語になっているのであろうか・・。

他にも、産地の名を冠して、秋田黄八、米沢黄八や京黄八と言われる織物もある。  
平織りも柄織りも、区別できないくらい本場物とよく似ているのだが、よく見ると何となく黄色の深みが違うようにも思われる。
黄八丈の黄色はコブナグサ(八丈刈安とも呼ばれる)を原料としているが、たとえば秋田黄八ではハマナスで黄色を染めるので、やや黄土色がかった落ち着いた色合いであるらしい(生産者がほとんどいないので、これはこれで、本場物より希少ともいえる)。

米沢では米流(米沢琉球紬)なども生産しているが、この地の織物の技術は高い。こちらの黄色は、どちらかと言えば、レモン色を思わせる明るい色味だろうか。

リサイクル品などを見ていると、それらしい物で「本場物」をうたい文句にしている商品も多いが、生地だけでどうやって見分けているのだろうか。   証紙がなければ、染料の科学分析でもしない限り、見た目だけでの判別は難しいと思うのだが・・。

着物は、着る人が気に入っていればそれが一番で、別に価格や本場物にこだわる必要はない。
本場物を正規に購入して仕立てるとなるとそれなりに値も張るが、ネットやリサイクルショップでお気に入りを見つけ、いい物を安く手に入れるのも着物好きには楽しいことだ。

しかしリサイクル品などの場合は証紙がないことも多く、産地の違う本物風とかB反などという可能性もあり得る。

確信が持てない場合には、それでも仕方ないくらいの気持ちで購入することもあるが(笑、本場結城紬を買う時だけは私は証紙にこだわっている(結城の証紙はややこしく、問題も指摘されている。平成17年には、公正取引委員会による行政処分も受けているほどである。結城紬についてはいずれ書きたいと思っているが、長くなりそうなので稿を改めて。
ともあれ、重要無形文化財の結城とは、基本的に「結」印とあるものだけである)。

黄八丈と白子屋お熊

ところで、黄八丈が江戸後期に大流行した背景には、白子屋お熊の存在がある。
現在でも、歌舞伎の演目「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」などで登場するが、大岡越前により、不義密通の罪で市中引き回しの上、打ち首獄門を宣告された女性である。
  材木問屋の長女として気の毒な事情もあるようだが、日本橋でも美貌で知られたこのお熊が、引き回しの際に着ていた着物が高価な黄八丈だった。
 このため、事件直後は「不義密通の縞」とかいわれてw、江戸城下で着る女性はいなくなったらしい(黄八丈に罪はないのに、イメージとは恐ろしい・・。今でいう風評被害みたいなものか・・)。
  この引き回しで着物も衆目に晒され、黄八丈が大流行したと言われることもあるようだが、町娘が黄色の格子着物をこぞって着るようになったのは、この50年ほど後、この事件を題材にした浄瑠璃が大ヒットして着物もブレークしてからとの見解もある(個人的には、こちらの方が確からしい気がするが)。
  ・・とすると、大岡越前の頃はまだ流行前だろうし、そもそも白子屋の娘だから誂えられたのであろう高価だったはずの黄八を、テレビドラマではなぜか多くの庶民女性がそれらしい着物で出演しているのも不思議なことだ(笑。